木村一基八段が羽生善治王位に挑戦している第55期王位戦。
その第5局が、8月27日、28日で兵庫県の『中の坊瑞苑』にて行われました。
ここまで羽生王位2勝、木村八段1勝。王手をかけるか、タイに戻すか。
王位戦第1局時点では、どちらも絶好調と言える成績でしたが、
現在の成績は、羽生王位15勝3敗(0.833)、木村八段13勝7敗(0.650)。
羽生さんの充実ぶりが分かりますね。勢いの落ちてきた木村さんは勝負所。
本局の先手は羽生さん。7六歩に後手が8四歩としたところから、戦型は角換わりへ。
駒組みが進み31手目、5六銀。両端を1歩ずつ詰めた形から相腰掛け銀に。
43手目、仕掛けの4五歩。4筋に回った飛車先から開戦となりました。
同歩、同桂、4四銀。ここで先手は3七角打。
「敵の打ちたいところに打て」を実践したような自陣角ですね。懐の深い手に見えます。
後手は6ニ飛など、次の6四角を受ける手もありましたが、
「強く行くなら」と言われていた7五歩を採用。
6四角、9ニ飛、7五歩。ここで後手が9五歩と突き、攻守交代となります。
同歩、8六歩。ここで羽生王位が封じ手の意思表示。
現地控室では同歩、9六歩打までは規定路線と読んでいるようです。
2日目。本命の8六同歩が指されました。
対して9六歩打。こちらも予想通り。次の手が注目です。
先手の選択は同香。6三角打が見えるだけに深く検討されていなかった手で、
感想戦では木村さんも「意外の一手だった」と語っていましたね。
この手の成否はいかに。
6三角打。この香取りに8七金と受けます。
この手では自信がないと言われていた変化だけに、
絶妙な手順が待っているのでしょうか。
4五銀右、同銀、同角。後手が桂得からの銀交換となります。
手番が回った先手は、手持ちの銀を早速投入する8三銀打。
羽生ゾーンに本家の羽生さんが銀を打ってくるのは怖いですね。
【羽生ゾーン】
羽生ゾーンは、2三、2七、8三、8七のマス。
ここに金銀打ちで好手を指し、勝利を収めていた様から呼ばれるように。
飛車打ちで悪手になった場合は、藤井ゾーンとも。(NHK杯での目の覚める悪手より)
飛車の有力な逃げ場所は6ニ、9三とありますが、いずれも先手持ちの声が多く。
控室の千田四段が「必然手の親戚のような手が続いていた」と言っていただけに、
これで先手が良くなるのであれば、羽生さんの対局観が万人の上を行っていたという事でしょう。
恐るべしですね。
千田君は「先手有利で済めば良いんですけど」との含みも。
9三飛、9四銀成、7三飛、8四成銀。
ここでは7ニ桂打が有力ではないかと見られていた中、後手の指し手は7一飛。
この手には「こんな手もあるのか」と驚きの控室。
ただ、この手は疑問手だったようで、感想戦でも7ニ桂打が有力という結論に。
9一角成、3六角、3七馬。3五銀。
千田君曰く「ここで何かしたい」局面。
先手の着手は3九香打。千田君は本命手だったようで「先手有利です」と断言。
次に5五馬で王手し、打った香車で角を取る順があるため、後手は先受けの3三金右。
3六馬、同銀、同香。
手番の回った後手は3七角打。この手には3八飛からの進行が先手に良く、評判はイマイチ。
上を行った手順が出るか期待です。
4九飛も手堅いと言われていた中、先手は「早い展開になる」と言われていた3八飛。
1九角成。3五歩打。
この81手目の3五歩打が鋭かったようで、感想戦でも「決め手」とされた一手。
控室の若手棋士、ツイッター解説の平藤眞吾七段、それぞれ好感触のコメントでした。
以降は、控室での検討も仕掛けの局面に戻ったりと、勝負所は過ぎたといったところでしょうか。
手が続き、多少の押し引きはありましたが、後手から先手玉に響くような攻めには至らず。
123手で後手の投了となりました。
感想としては羽生王位が強かったですね。
今期の王位戦を見ていると「チャンスがあるんじゃ」と書きましたが、
相手のスタイルに合わせて指してきた上で、更に上を行く差し手で圧倒したように感じます。
後手としては、やはり68手目の7一飛がターニングポイントでしたね。
ワンチャンスがあっただけに残念。番勝負は追い込まれましたが、ここからの粘りに期待です。
応援コメントも書いちゃいます。頑張れ、木村八段!
羽生名人は糸谷六段との竜王戦挑決に加えて、豊島七段との王座戦も始まります。
羽生さんの将棋をたくさん見れるのは嬉しいですね。
いずれも難敵なだけに、どんな将棋になるか楽しみです。
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