ジェイクールのスタッフ雑記

NHK杯『菅井竜也 五段vs丸山忠久 九段』これぞ捻り合い!見応え抜群の攻防は終局まで

第64回NHK杯テレビ将棋トーナメント。
本日の対局は『菅井竜也 五段vs丸山忠久 九段』。
良いカードですねえ。3回戦でも特に楽しみにしていた対局です。

解説は井上慶太九段。菅井君の師匠ですね。
慶太さん曰く、丸山さんの対局解説になることも多いとのこと。
おそらく、本局のように対局者に縁がある人が多いのかも。

弟子の菅井君の印象は、子供の時から将棋に全身全霊。
最近は更に指し手が厳しくなっているそうです。

対する丸山さんの印象は、普段はニコニコ。将棋は辛い(からい)、厳しい。
一般的な認識と差は無いようですね。

対局前インタビューは先手の菅井五段から。
「丸山九段は攻めが強く、辛抱強いという印象で、自分も攻めが好きなので、
攻め合いの将棋にしたいです」と。
最後に「優勝目指して頑張りたいです」と気持ちの良いコメントでした。

対する丸山九段は、菅井五段は若手の実力者で、実戦派と見ているそうで、
「勢いに押されないように頑張ります」と丸山さんらしく気負わない自然体。

先手:菅井五段
後手:丸山九段

7六歩、3四歩、6六歩、3二飛、7七角、6二玉。
菅井君が先手になったので中飛車を予想していたのですが、
7六歩から6六歩。丸山さんは少し考えて飛車を振りました。

8八飛、3五歩、2八銀、7二銀、8六歩、7一玉。
先手は向かい飛車に。ここらへんは先手の用意の作戦と言った感じがしますね。
後手は美濃囲いへ。

8五歩、4四飛、6八銀、4二銀、4八玉、5二金左。
5八金左、1四歩、3八玉、4四歩、8四歩、同歩。
4四歩を見て、先手は飛車先の歩を交換へ。

同飛、8三歩打、8六飛、4三銀、6七銀、5四銀。
7五歩、8二玉、9六歩、1五歩、9五歩、3六歩。
互いに端を詰めた形から後手も飛車先の歩を交換へ。

同歩、同飛、3七歩打、3四飛、4八金上、1三桂。
金無双の囲いを完成させた先手に対して、後手は1三桂と跳ねました。
先手は2八に銀がいる形なだけに、構想が問われます。

ここで対戦成績。菅井五段2勝、丸山九段1勝。現在は菅井五段の2連勝中。
3戦ですが、高勝率の丸山九段に勝ち越しているのは凄いですね。
前回の対戦では2度の千日手からの決着だったようです。

6五歩、4五銀、9七桂、3三角、7四歩、同歩。
一歩差し出す形の6五歩は、後手の1三桂を咎めにいく構想で、
これを読んでの後手4五銀。9七桂とし先手の仕掛けが見えている中、後手はじっと3三角。
これには解説通り、7四歩と仕掛けました。

菅井君は岡山県出身で加古川(兵庫)を拠点とする師匠の井上慶太九段とは、
どのような縁で弟子入りしたのか気にはなっていたのですが、
NHK杯で慶太さんが解説しているのを見て、当時小学生だった菅井君が手紙を送り、
一度会うことになって、そこから弟子入りとなったそうです。

5五角、7三桂、8四歩打、同歩、同飛、8三歩打。
先手の天王山への角出に後手は桂跳ねで受けました。
8四同飛に対して8三銀と受けた場合は、慶太さんは飛車切りを予想。
丸山さんは考えた末に唸りながら8三歩打。

7四飛、5四銀、8八角、6五銀、7九飛、7七歩打。
後手は攻めを押し返すべく、5四銀から6五銀と先手の飛車角を下がらせ、7七歩打と焦点の歩。

棋士が対局中に使う扇子で珍しいのものは、橋本八段の黒い扇子がありますが、
丸山さんも個性的な扇子で、一回り大きな扇子を使うそうです。
まだ使用していませんが、本局でも座り位置の右側においてあるとのこと。

元々は扇子自体使わないタイプだったそうで、
初めて使ったのが、慶太さんとの対局だったようです。
「その扇子に驚いて負けました」と慶太さんらしいですね(笑

同角、7五歩打、5六銀、7六歩、5五角、5六銀。
先手の5六銀とぶつけた手に対して、後手は7四銀と引く手と同銀と応じえる手があり、
展開が大きく変わるだけに時間を投入。
実戦は7六歩、5五角の交換を入れてから5六銀と銀交換へ。

同歩、5四歩、6六角、2四角、8九飛、6五銀打。
後手は2四角と眠っていた角を活用できる形に。
焦点はやはり7三桂の桂頭で、そこを攻める先手と守る後手という構図が続きます。

菅井君は趣味を聞かれたところ「なし」と答えたそうです。
将棋の虫の菅井君らしい、これまた気持ちの良い回答ですね。
慶太さん曰く、振り飛車一本の頃は趣味「居飛車」と答えていたそうです。
こーゆーの好きです。

8八角、6四歩、6六歩打、7四銀、7五歩打、6三銀引。
後手の6五に打った銀が歩に追われる形で、下がって下がって、結果ダイヤモンド美濃に。

1六歩、3五飛、6五歩、同飛、4四角、7七歩成。
先手は1三の桂を取るのが早いと見て1六歩。
これに3五飛と次に7五飛を見せた後手の切り返しも上手いように見えましたが、
先手は堂々の6五歩。

慶太さんは「ここまで読んで自分が良いと思っているなら菅井君は強いですね」と。
難しい選択を迫られる機会が多かった後手は、ここで考慮時間が0分に。
対して決断良く指してきた菅井君は残り6分と時間は大差。

同角、7五飛、1一角成、7九角成、6六馬、8九馬。
後手の7九角成に対する応手は悩ましいところですが、
6六馬から飛車の取り合いを選択。

7五馬、7四歩打、5七馬、9九馬、8四歩打、同歩。
7四歩打と馬を追い払いつつ、ずっとあった桂頭のキズを消したのは、
丸山さんの巧さが光ったように見えました。

しかし、先手の8四歩打からの仕掛けがどうやら上手いようで、
師匠もお褒めの解説。

8三歩打、同銀、8五歩打、同歩、2一飛打、5一香打。
玉頭に手をつけつつ、2一飛打と横からも。

2三飛成、6五桂、8五桂、6二金、8四歩打、5七桂成。
6五桂と馬取りに当てた桂跳ねに対して先手が考えています。

慶太さんは菅井君の表情を見て「この顔は角を逃げない」。
ここは何か良い攻めの手を繰り出しそうな予感はしますね。
指し手は8五桂。次に7三銀打とする手が厳しく、後手に受けの手を指させたのは大きいです。
8四歩打、5七桂成と攻め合いに。

7三銀打、同金、同桂成、同玉、8三歩成、同玉。
6三竜、8四玉、5七金直、5九銀打、5八金寄、6五桂打。
6三竜に8四玉と逃げた手に対して菅井君が考えています。

「寄せがあれば」という局面だったと思いますが、実戦は5七金直から丁寧に受けていきました。
後手も持ち駒が豊富なだけに、良い手があるか、先手が一手誤れば逆転という緊張感があります。
ここで菅井君の考慮時間も0分に。

6七金寄、8八飛、6八歩打、8九馬、3九銀、4六歩打。
攻防手を繰り出し続ける後手に対して、先手の3九銀は解説も感心する一手で、
味の良い受けに見えます。

9七銀打、4七歩成、2八玉。
先手は飛車取りに当てつつ、詰めろの9七銀打。
これに後手は4七歩成の王手も、3九銀の効果で2八玉と逃げます。

この手を見て、攻防に見込みなしという事で丸山九段が投了。
129手で菅井五段の勝ちとなりました。

感想戦が始まると、丸山さんは対局中に一度も使用しなかった扇子を手に。
これ、想像以上に大きいですね。そりゃ、慶太さんも驚いて負けます(笑

丸山さんは相振りに関しては予定じゃなかったそうです。
「菅井さんは経験値あるからやるべきじゃなかった」とも軽い感じで。

互いに自分の指し手について、
丸山さんは1三桂は駒が左右に別れてしまったので良くなかった、と。

菅井君は5五角と出た手で、8五桂の方が勝っていたのでは、と後から考えていたそうです。

一局を通して、序盤から水面下での攻防を感じさせる捻り合いで、
互いに決定打を与えさせない「大きく差が開いた局面があったのかな」という
僅差での応酬が続いた感覚で、非常に見応えのある将棋でした。

勝ち負けは「後手の左右の桂が負担になってしまってかな」という印象です。
電王戦以来、菅井君の将棋に対する姿勢に惹かれて応援していたりするので、
丸山さんに勝って次に進むのは嬉しいですね。優勝期待しています!

次回の対局は『藤井猛 九段vs行方尚史 八段』。
旧知の間柄なだけに対局前のインタビューも少し楽しみです。
良い将棋になって、感想戦も見れたら嬉しいところ。

解説は佐藤天彦七段。
ベテランの対局を若手が解説するのは珍しいですよねえ。
天彦君がどんな話をしてくれるのか楽しみに。

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