ジェイクールのスタッフ雑記

将棋電王戦FINAL 第5局 『阿久津八段 vs AWAKE』必然の結末。問われる価値

2勝2敗で迎えた将棋電王戦FINAL第5局。
阿久津八段 vs AWAKE。
勝つのはプロ棋士か。コンピュータか。

午前10時。
立会人がいつもの「定刻になりましたので~」の文言を噛むという、
緩い感じで対局開始。

先手の阿久津八段は、すぐに指さず。
気息を整えるのに時間を使う光景は、たびたびありますが、
肘と顎に手をあて、考える時の姿勢で時間を使っています。

お茶に口をつけて。一呼吸。
初手7六歩。

ニコファーレの大盤解説では、森内九段、藤井九段という豪華解説陣で
軽快なトークが展開されています。

後手、3四歩。
阿久津君がチラチラとカメラ目線。

6八飛、8四歩。
オールラウンダーで後手番では振り飛車も採用する阿久津君ですが、
先手で早々に四間飛車というのは珍しく、用意の作戦ということでしょう。

これには解説の藤井さんがノリノリで
「今から俺が行って代わっちゃおうかなっ」
と楽しそうです。

4八玉、6二銀、1六歩。
藤井さん曰く、藤井システムで1六歩は普通の手ですが、本局のような角道を開けた
角交換四間飛車の形で、端歩を突くのは珍しい手のようです。

阿久津君のプロフィール紹介では「東の王子と呼ばれている」の表記に、
藤井さんが「初めて聞いた」と率直な感想で場が盛り上がり。

8八角成。
この戦型で居飛車から角を換えるのは対人では珍しく、コンピュータらしい一手。

同銀、4二玉、1五歩。
先手は端歩を突き越しました。先手であれば損になりにくいので、
「これは十分にある手」と藤井さんの解説。

3二玉、2八銀。
この2八銀も普通の手では無く、藤井さんは「角交換なら無くはない手」と
言っていましたが、これはそのような狙いではなく、ミリオン定跡狙いの可能性が高そうですね。

ミリオン定跡と書きましたが、正式な名称が無いため、響きの良い呼称で書いております。
この定跡は、電王戦のオマケ企画として、いつも電王戦の前に数日行なわれている

「ほどほどのスペックマシンの大将ソフトに早指しで勝ったら100万円」

の中で出た形で、今年の大将ソフトAWAKEに唯一勝利した対局となりました。
という事で100万円を獲得した定跡でミリオン定跡。

この手筋は対AWAKE専用ではなく、対ソフトでは一部で有名らしい、
ソフトが錯覚して悪手を指し、駒得出来る指し方となっています。

このミリオン定跡を知っている方は、狙う可能性も0では無いと思いつつも、
限りなく0に近い、選ばないだろう、と思っていたのではないでしょうか。
自分はそう思っていました。

2二玉、2六歩。
手を見ても分かりますが、現地や控え室からも情報が入ってきて、
やはり、阿久津君はミリオン定跡を狙っているようです。

前述しましたが、ミリオン定跡の狙い自体は対ソフトの有名な筋らしいので、
100万円企画を見て真似た訳ではなく、事前研究で試した結果とのこと。

5四歩、2七銀、5三銀、
2八に角を打たせるのがミリオン定跡の狙いで、先手は2七銀として罠の設置が完了。
しかし、後手は誘いに乗らず、自陣を引き締める5三銀。

ここで現地中継が入り、えりりんが躍動しております。
ゲストにはドワンゴの川上会長が登場で、
電王戦について「最初は中継させてもらうつもりだったのが、
いつの間にか主催になっていました」と裏話も。

9六歩。
先手は、角打ちを待ちます。

2八角打。
森内さん、藤井さんが「出来れば見たくなかった」と言っていた2八角打が遂に実現。
これで最低でも桂馬と角の交換となる、駒得が確定。

1六香。
この手を見て、AWAKEの開発者である巨瀬さんが投了の意思表示。

21手。阿久津八段の勝ちとなりました。

対局開始から約50分での投了に各地が騒然しております。
終局直後のインタビューで阿久津君は、普通に指したら厳しいので、
本局の手順を採用したと語っていました。

再現率は100%ではないため、ダメな場合も想定していたそうですが、
「途中まで五分でいけるように」と、難しさが伺えます。

続いてのインタビューとなった巨瀬さん。
顔を背けていたのもそうですが、声からも怒りか失望か、
そのような感情でいっぱいだったのだろうと推測できるやりとりでした。

2八角打の形は、100万円企画で知ったそうで、
実現すれば大差、勝負にならないだけに、
「プロ棋士ならそんな手は選ばないだろう」というリスペクトが
あったのではないかと見てとれ、それだけに指されたことに
失望したのではないかと思いました。

角打ちの局面は、プロなら大差と言われていただけに、巨瀬さんの投了は当然でしょう。
続けても棋譜を汚すだけなので、元奨励会員で将棋を知る人だからこその決断とも。

最終局は全5局の対局者が揃って記者会見をするためか、企画的にか、
記者会見は18時を予定。

ニコファーレでは12時から全5局を順番に振り返っていくそうで、
藤井さん、森内さん、ゲストも来てくれると思いますので、
これはこれで楽しい午後になりそうですね。

まだ記者会見は行われておりませんが、今年も全局を見た感想としては、
もう『プロ棋士 vs コンピュータ』の構図で雌雄を決する勝負をする価値はないと思いました。

各対局棋士が局後の記者会見では、素直にコンピュータの強さを話してくれていて、
コンピュータの棋力が高すぎて、正面からぶつかっても厳しいという判断から、
3局,5局とハメ手とも言える手を本命にせざる得ない状況で、
それが実現したのが第5局であり、結果は見ての通り。

これがプロ棋士の将棋なのでしょうか。
「勝負なので結果を1番に考えるのが当たり前」という声と、
「強さを求めるだけのコンピュータとは違う」という声があります。

本局の結果、団体戦でプロ棋士の初めての勝ち越しが決まりました。
この勝ち方で喜ぶ人がどれだけいるのか。
斎藤君、永瀬君の勝利と阿久津君の勝利が等しく扱われるのは残念でなりません。

ただ、本局のような結果になる可能性は、ソフトの貸し出しが始まった時点から
危惧されていた事であり、必然であり、その時が来ただけとも言えるでしょう。

コンピュータと対する形で指すのであれば、100万円企画同様に
「挑む」という形で、イベント色の強いものにシフトする時期かもしれません。

もし、ガチンコでやるなら、やはり貸し出しなしで、
勝っても負けても本当のガチンコ勝負が観れたら嬉しいですね。

電王戦自体は、対局以外にも見所が多く、コンテンツとしてとても面白いので、
タッグマッチ以外にも良い形で続いていったらと楽しみにしています。

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